自律性を育むウェルビーイングな自主運営型合宿



去る8月5日〜6日、一般社団法人ウェルビーイング心理教育アカデミー(通称AWE)は、会員向けの夏合宿を開催しました。会員のご家族の参加も呼びかけたため、2歳〜60代までと幅広い年齢層の方がご参加くださいました。

今回は、軽井沢の宿泊施設を会場にして開催したのですが、今年の猛暑の影響は日本有数の避暑地と知られる軽井沢も例外ではなく、連日33℃ほどの真夏日を記録していました。しかし、子どもも大人も分け隔てなく、相互協力しながら合宿のプログラムを創り出すというユニークな試みは充実した合宿内容を生み出し、気温以上に熱く学びの多い一泊二日が繰り広げられました。

 

 

 

自らの幸せを自ら創り出す

今回の合宿の目的は、「会員相互のつながり」としました。しあわせの研究では、人との良好な人間関係をもっていることが幸せに大きく関係することがわかっています。現在、AWEの会員は日本とNYにいます。普段は直接顔を合わせることが少ないメンバー同士が、この合宿を通じて互いに知り合い、新たなつながりを持ち、それぞれのウェルビーイング向上に役立つことを意図して今回の合宿を企画しました。

 

AWEの合宿は、ウェルビーイングに関して学び、体験をしようとするものですが、一般的な合宿型ワークショップにない少し変わった特徴があります。それは、プログラム枠を解放して参加者の自律性に委ねていることです。これは、「自分の人生を自分で創造できる人たちを増やすこと」というAWE活動目的に基づいて、合宿全体をデザインしているためです。具体的には、AWE(主催者)が提供するプログラムは、オープニングセッション(1.5時間)とクロージングセッション(1時間)のみで、他の食事時間などを除いたプログラム枠を解放し、参加者が学びたいこと、やってみたいことなどを提供していただくようになっています。

 

 

 

基本的にどのプログラムも参加は自由。プログラムに参加せずに軽井沢の自然に触れるために出かけていくのも可能です。ただ一点、参加者一人ひとりが合宿での経験をウェルビーイングなものにするために、それぞれ工夫いただくようお願いしました。

 

合宿でのAWEの役割は、ウェルビーイングな活動ができるように「場」を設定し、ホールドすることです。その「場」を活用して、ある人はゲームアクティビティを企画し、ある人はテーマを設定して対話型のワークを行うなど、様々な学習コンテンツを提供してくださいました。結果的に、時間の経過と共に参加者によって次々と合宿の内容が創造され、合宿プログラムが自己組織的に形作られていきました。

 

 

 

生物的に活動できる創造環境をつくる

一般的に行なわれている合宿は、予めスケジュールと内容がしっかり決められており、参加者はそれに合わせて動くスタイルがほとんどです。こうしたスタイルは、時間と枠組みが限定され、そこに人を当てはめる機械的なデザインと言えます。このような形態の合宿の利点としては、開催期間の参加者の動きの予測しやすさと状況のコントロールのしやすさなどが挙げられます。しかし、その時々の状況の変化に柔軟に対応したり、個々の参加者のニーズに合わせることはできません。特に子どもと大人が参加している場合には、一方がもう一方に合わせなければならなくなり、場合によってはどちらにとっても充足感が持てない状況を生み出します。しかし、状況に柔軟に適応する生物的なデザインを検討すれば、これらを解消する道が見えてきます。

今回は、社会的ウェルビーイングの実践研究として、自主運営型の合宿になるようプログラム構成を工夫しました。スケジュールデザインにあたっては、生物的組織デザインフレームとして開発した「クリエイティブワークシステム®」※1を用いて合宿の場の設計を行いました。「クリエイティブワークシステム®」は、図のように2つの環境5つの方法から構成されています。

 

 

それぞれの要素を簡単に解説すると次のようになります。

 

「チーム内の対人不安を低減する」に関してはアイスブレイクと関係づくりを行い、「ワークチームのクリエイティビティ向上の”場”を演出する」については、自分のやりたいコンテンツが書き込めるスケジュールボードを掲示して環境を設定しました。「a.コントロールを手放す」のフレームについては、どのプログラムにいつ参加するか、あるいは参加しないのかを自己選択・自己決定できるようにしました。「b.権限の自律分散を促進する」のフレームについては、開始時間と内容と実施場所をコンテンツ主催者に委ね、「c.組織の社会的な存在目的を明らかにする」については、提供するコンテンツはウェルビーイングの向上を意図して実施していただきました。そして、「d.恊働学習の機会を提供する」のフレームについては、振り返りと対話の時間を持つようにし、「e.リフレクションを支援する」に関しては、スケジュールボードにすでに掲示されているコンテンツを確認しながら自分の提供したことを自律的に調整できるようにしました。

 

その結果、多少の差はあっても全てのプログラムに参加者が分散し、スケジュールボードに書かれたプログラムが1日目から2日目にかけて増えていくという現象が起こりました。参加者がオリジナリティ溢れるプログラムを提供してくださり、主催者が計画する合宿よりも多様性があり、楽しく深みのある合宿になりました。

 

 

 

自律性と有能感と関係性がウェルビーイングを向上させる

実際に自主運営型の合宿を実施してみて、利点と難点について幾つか分かったことがありました。具体的には、次のようなものです。

 

〈利点〉

・参加者のニーズに合ったものを自分で創り出せる

・時間に追われず自分のペースで参加できる

・思いついたことを形にできる

・能動的に関わるので自律性が高まる

・コンテンツを提供し実施することで有能感と満足感が生じる

・統制的な要素がないため関係性が築きやすい

・自律的にタイムマネジメントが行われる

 

〈難点〉

・プログラムに関する権限を手放すことが難しい

・どのような状況になるか予測ができない

・当日のプログラムに入る前の事前準備に創造性が求められる
(開催場所の選定や機材の準備、合宿の形態への理解と同意の取り付けなど)

 

心理学者のエドワード・デシは、意味ある選択が自発性を伸ばすことと指摘し、著書の中で次のようなことを述べています。「人は、自ら選択することによって自分自身の行為の根拠を十分に意味づけることができ、納得して活動に取り組むことができる」(p.45)※2デシは、自律性と有能感と関係性の3つが内発的動機付けに関して重要であることを指摘しています。

今回の自主運営型の合宿は、まさに自律性と有能感と関係性を育む場として機能し、AWEの活動目的である「自分の人生を自分で創造できる人たちを増やすこと」を具現化するようなイベントになったのではないかと思います。

これは合宿にご参加くださった皆さんのご協力のおかげです。本当にありがとうございました。

 

 

引用文献

※1『自己組織化を促す組織デザインのためのフレーム開発-創発的に協働できる組織づくりを目指して-』渡邊義.法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科イノベーションマネジメント専攻.2016年プロジェクト報告書

※2『人を伸ばす力-内発と自律のすすめ-』エジワード・L・デシ、リチャード・フラスト著.桜井茂男監修.新曜社

 

記事:渡邊 義