ポジティブ心理学では、より幸せに生きる方法が研究されていますが、とても幸せな人と、とても不幸な人を分ける、たった一つのものは何かご存知ですか?
それは、良い繋がりがあることです。
とても幸せな人は、一人残らず、良い繋がりがあることがわかっています。
では、良い繋がりはどう作られるのでしょうか?
カリフォルニア大学サンタバーバラ校のゲーブル博士は、相手の良いニュースに対するあなたの反応が大切だと言っています。
悪いことが起こった時に親身に反応するのはもちろん大切なことですが、「相手のポジティブな体験談」へのあなたの反応が、関係性の発展と継続の鍵となるのです。
ゲーブル博士は、相手の良いニュースを聞いた時の反応を2つの軸で4種類に分けました。
一つの軸は、相手の話に興味を持っている(積極的)か、持っていないか(消極的)。
もう一つの軸は、相手のニュースを喜んでいる(建設的)か、喜んでいないか(破壊的)です。
例えば、「私、昇進したの!」という相手のニュースを聞いたパートナー(あなた)の反応は、それぞれ次のようになります。
- 消極的で破壊的(Unhappy for)
関心もなく喜びもしない。相手の言ったことを無視して自分の話題にすり替えてしまいます。
「へー。それより、僕に何が起こったと思う?」
- 消極的で建設的 (Happy for)
喜んでいるけれどあまり関心はない。静かなエネルギーのサポートです。
「それは良かったね。ところでさ・・・」と話題が変わり、良かったニュースは立ち消えになってしまいます。
- 積極的で破壊的(Unhappy with)
関心はあるけれど喜んではいなくて、良いニュースに対してネガティブな要素を持ち込んで台無しにしてしまう。
「ということは、もっと長い間働くっていうことになるよね。家族との時間が今より減ってしまうし、僕の負担も増えるってことだよね?」
- 積極的で建設的(Happy with)
関心を持って一緒に喜ぶ。相手にその経験を十分に話してもらい、一緒に味わいます。
「すごい!もっと聞かせてくれ!」「何をしてきたことが認められたんだと思う?」「それを聞いた時どう思ったんだい?」など、関心を示すことで自然と湧いてくる会話や質問が続きます。
ゲーブル博士が2006年に78組のカップルの反応を録画して分析した研究では、ACRをしていたカップルは、親密性、信頼、満足度が高く、1日の中で楽しくリラックスできる活動が多く、葛藤が少なかったと報告しています。
また、下のグラフからわかるように、ACRは特に男性が学ぶと影響が大きいという示唆もありました。(この研究ではたまたま全組男女のカップルのみでした)
Source Will You Be There for Me When Things Go Right? Supportive Responses to Positive Event Disclosures. Gable, Gonzagand & Strachman Journal of Personality and Social Psychology 2006, 91(5), 904 –917
左側のグラフは男性、右のグラフは女性の、パートナーが自分の話に対してどのくらい反応してくれたと感じたか(応答性/Responsiveness)を表しています。
薄いグレーの棒グラフは、話したニュースがその人自身にとって「重要」である場合を、濃いグレーの棒グラフは「重要ではない」場合を表しています。
さらに、グラフの左側の棒グラフのセットが、話を聞いているパートナーのACR度が高い時、右側のグラフのセットが、ACR度が低い時を表しています。
男性の場合は、そのニュースが大切かどうかに関わらず、相手がACRをしてくれると相手の応答性が高いと感じ、相手がACRをしてくれないと相手の応答性が低いと感じます。
しかし、女性の場合は、そのニュースが大切なことだった場合に相手がACRをしてくれていないと、相手の応答性が低いと感じる度合いが何倍にもなります。
つまり、女性は自分が大事だと思っていることを話しているときには、相手が自分のことを気にかけてくれているか否かををとても敏感に感じとるということです。
また、対象者は少ないのですが、以下のグラフに現れているように、この2ヶ月間の研究の間に別れてしまった何組かのカップルの男性の反応を見ると、別れなかったカップルに比べて、女性の良いニュースに対する反応だけが薄かったということです。
(縦軸がResponsiveness、グレーが分かれたカップル、白が分かれていないカップル。左側のセットが良いニュースの後の反応、右側のセットが悪いニュースの後の反応を表しています)
また、ゲーブル博士は別の研究で、この応答性(Responsiveness)は絆の強さを予測するものだとしています。
Source: The Paradox of Received Social Support The Importance of Responsiveness, Maisel & Gable Psychological Science, November 8, Vol 20, 928-939
薄いグレーは応答性を高めようと意識していない、濃いグレーは意識している、左側はパートナー(相手)の応答性が低いと感じている人の場合、右側がパートナー(相手)の応答性が高いと感じている人の場合を表しています。
相手の応答性が「低いと感じている」と繋がりは低く、相手の応答性が「高いと感じている」と繋がりは強くなります。
ACRをすることは、応答性が高いと感じてもらう一番わかりやすい方法になります。
また、2012年のSchuellerらの研究は、1日3回ACRを意識した人は、1週間で幸福度が高まり、落ち込みが減ったと報告しています。
特に内向的な性格の人には効果的だったということです。
ACRは、相手を大切にしているメッセージが伝わり、相手が幸せになり、自分も幸せになり、そして二人の関係を強めます。
英語で良いニュースをシェアすることを「Capitalization」と言いますが、日本語に訳すと「資本化」「投資」「現金化」という言葉が出てきます。人間関係に投資し、その資源を最大化させているのですね。
ぜひ、次に大切な人が、「ねえ、ちょっと聞いて」と良いニュースを持ってきたら、一緒に喜び、関心を持って反応してみてください。
ACRが人との繋がりを強めるメカニズムは他にもあり、それを知るとなぜACRがこんなにもポジティブ心理の分野で取り上げられるのかがよくわかります。
ペンシルベニア大学のレジリエンストレーニングやポジティブサイコセラピーにも使われていますし、2018年の7月にポジティブ心理学の創始者セリグマン博士が日本に来日したときの講演でも話されていました。
ウェルビーイング心理教育アカデミーでは、このACRについて 2018年9月25日(火)朝10時(NYや前日夜9時)から特別ウェビナーを開催します。上記のデータも含め、ACRのメカニズムについて解説する予定です。
どなたでもご参加いただけます。詳細はこちらをご覧ください。
→ 特別ウェビナー「絆を強める!ACR(積極的建設的反応)」
2018年9月11日 ニューヨークにて 松村亜里